北海道東部の網走湖(網走市と大空町)の氷上で、サケの死骸をめぐり、オジロワシとカラスがにらみ合いをしていた。カラスはオジロワシからサケを横取りしようと少しずつワシに接近。これに対し、ワシは獲物を奪われまいと両脚でサケを押さえつけ、鋭い眼光と太いくちばしでカラスを威嚇する。貴重な食料争奪の攻防はまさかの結末を迎えた。
オホーツク海と網走川でつながる網走湖。サケが遡上(そじょう)する小河川の流れ込みがあり、そこでは12月ごろまでサケの姿が見られる。付近の気温がしばしば零下15度を下回る冬、網走湖は全面結氷し、流れ込みで産卵後に死んだサケは、次の春までそのまま氷の下で冷凍保存される。
3月下旬、流れ込みの氷が開くと、サケの死骸が現れる。周辺に暮らす野生動物たちにとって、エサの少ない早春の貴重な食料だ。
記者がオジロワシとカラスの攻防を目撃したのは、サケの遡上する流れ込み近くの氷上だ。ワシが川底からサケを引き揚げたとみられ、当初はワシが独占してほおばっていた。
ところが1羽のカラスが「うまそうだなぁ~」と言わんばかりに、ワシに接近した。
このワシは、くちばしや尾の色などからまだ幼鳥とみられる。しかし、近い将来、翼を広げると2メートル以上もある「空の王者」となる国の天然記念物だ。幼鳥でもカラスの2倍ほどの大きさはある。
カラスに気づいたワシは、「近づくな」とばかりに鋭い眼光でカラスをにらみつける。カラスは一瞬、動きを止めたが、今度は姿勢を低くして近づき、「ちょっとだけでも、くれんカァ~」とばかりに、片脚を少しずつ伸ばした。ワシは奪われまいと両脚でサケを押さえつけ、今度は太いクチバシをカラスに向けて威嚇した。
さすがにカラスはひるんだ。
しかし、次の瞬間、近くにいたカラスが1羽、また1羽と加勢してきた。カラス数羽に取り囲まれる格好になったワシは、落ち着かないのか、嫌がるそぶりを見せ、サケを置いて数十メートル以上先へ飛び去ってしまった。
オジロワシは精悍(せいかん)な顔つきと大きな体の割に、臆病で神経質なところがある。このため写真も、かなり離れた場所から500ミリの超望遠レンズで撮影した画像の一部分をトリミングした。
ワシからサケを横取りしたカラスたちは、「どや顔」でサケをむさぼる。ワシはまだサケに未練があるのだろう。遠くの氷上から、じっとその様子を見つめていた。「ぼくのサケだったのに……」(神村正史)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル